市民公開講座一覧
2009年4月 6日 (月)
名古屋ハートセンター
副院長 松原徹夫 先生
「虚血性心疾患の初発症状と対策」
講演内容
近年、食事、運動などをはじめとするライフスタイルの変化に伴い、冠危険因子といわれる高血圧、高コレステロール血症、糖尿病などが急増している。しかもこれらの疾患は初期にはほとんど症状がないため気付かずに放置されることが多い。健康診断などでコレステロール値は測定され、異常があれば指摘されるが、糖尿病に関しては空腹時血糖を測定した場合には異常を指摘されることは少ない。しかし空腹時の血糖値が正常でも、食後血糖値が高い場合が多く、実はこの耐糖能異常こそが脳梗塞、心筋梗塞などの原因となる動脈硬化に最も深くかかわる因子である。動脈硬化がわずかで、心臓を栄養する冠動脈がさほど狭くなくても、突然閉塞し、心筋梗塞を発症する。心筋梗塞を発症した場合は持続する胸痛で気づくが、それでは遅いわけである。場合によっては突然死といった事態になりかねず、病院にたどり着く前に命を落とす、いわゆる院外死が多いこともこの病気の特徴である。また冠動脈の動脈硬化が進行し、内腔が徐々に狭くなってくると、いわゆる労作性狭心症として発症する。これは安静時あるいは日常の軽い労作では何ともないが、階段を急いで駆けあがったり、坂道を登ったりした時に症状が出る。症状は胸のあたりの違和感、圧迫感、締め付け感であるが、人によっては喉、顎、左肩から腕といった場所に症状を自覚することも珍しくない。いずれも労作で症状が出て、安静にしていると症状が消失する。しかしこのような症状で病気が見つかることも少しずつ減ってきている。何故か?答えは明白である。症状発見のきっかけとなる労作が減ってきているからである。いわゆる運動不足である。階段を使わずエレベーターを使い、近くへ行くのも車を使う。しかも食べるものは魚と野菜などの日本的なスタイルから、肉、脂を多く摂るようになり、冠危険因子は増え動脈硬化になりやすく、しかも運動しないため病気にも気付かない、という悪性サイクルに陥っている。最近は健康ブームのようだが、これも健康“食”ブームで、食べたり飲んだりすることに関心があるのみで、テレビの前で健康番組を一生懸命に見ている人が多いようである。結果、気づいた時はすでに・・・となるわけである。
一方で、症状があり病院を受診すれば簡単に全てが分かるわけでもない。胸のレントゲン写真や、心電図、超音波検査(心エコー)といった簡単な検査では冠動脈の状態を把握することは難しい。造影剤を使用して血管をうつしだす画像検査が必須である。この検査は、一昔前までは心臓カテーテル検査しかなっかたが、現在はCTで冠動脈を造影することが可能となった。脳や肝臓などとは異なり心臓は動いている臓器であるため、CTで冠動脈を評価することは不可能であったが、近年技術が進み、これが可能となったのである。よって、わざわざ手首などの動脈から心臓までカテーテルを挿入することなく、数秒間で冠動脈の評価ができるわけである。また、CTで狭窄病変が発見された場合も、多くはカテーテルを使用しての治療が可能である。最近は、薬剤溶出型ステントを使用し、病変を拡張すれば、また狭くなってくることも稀である。しかし、いくらステントでの治療がうまくいっても、糖尿病の管理が悪ければ、ステント内がまた狭くなったり、別の場所が狭くなったりするため、いずれにせよ、冠危険因子である“血圧”、“脂質”、“耐糖能”の管理のため食事のみならず、運動を心がけるようにすべきである。